嫌気性ラグーン処理

 深くて大きな貯留槽で、嫌気的な微生物分解と沈降分離をさせる方法です。処理が簡易で労力や運転費用がかかりませんが、1年分の汚水量に匹敵するくらいのかなり大きな容積が必要です。

 処理水は、放流できるほどの水質ではありませんが、ふん尿を主体とした汚水を1年以上の滞留期間のある嫌気性ラグーンで、処理すると以下の汚濁成分の除去が望めます。

COD 70〜90%
TS 75〜95%
VS 75〜85%
全窒素 60〜80%
リン 50〜70%
カリウム 30〜50%
(米国EPA報告書8-54ページ表8-10を参考とした)

 農地の灌漑水として利用するか、蒸散するか、更に浄化するかなどの必要があります。適切な処理ができていれば、農地に散布しても臭気の問題はありません。また、一部は、ふん尿溜のフラッシングなどに利用できます。

 処理水とは別に、沈降分離された汚泥の処理が必要です。適正な設計と適正な汚水の流入ならば、汚泥の引き抜きは、それほど高い頻度ではありません。しかし、汚泥が蓄積しすぎると、正常な浄化ができなくなるので、注意が必要です。

 ラグーンの槽は、地下水を汚染しないように遮水する必要があります。また、周辺の表流水などの無用な水が流れ込まないように、周辺を盛り土するなどします。また、深くて大きな池なので、人が立ち入らないように周辺に高い柵をするなどして、事故がないように配慮してください。→水槽の構造

 嫌気性ラグーンで処理できる汚濁物質量は限られているので、汚濁物質の流入量が過剰になると、悪臭が発生したり、汚泥を除去する頻度が高くなったりします。また、汚泥が蓄積しすぎると、浄化している部分の容積が小さくなるため、悪臭が発生するようになります。

 嫌気性ラグーンの利用が多い米国では、設計基準や管理方法を示しています。ここでは米環境保護庁(EPA)が2002年に公表した報告書と、ノースカロライナ州立大学が中心となって作成した1992年のパンフレットを参考に紹介します。

 必要な容積は、浄化に要する容積、汚泥の貯留に要する容積、汚水量に対する容積、降雨量、風水害による一時的な流入水量、表流水流入量、蒸発量、余裕容積を加えて求めます。

【浄化に要する容積】汚水に含まれる有機物量(VS)で決まり、9〜20m3/kgVS・日の容積が必要です。幅があるのは、水温が高いほど微生物の活性が高まるためです。従って、暖かい地域ほど小さい容積ですみます。ノースカロライナ州の養豚の例を表に示します。

【汚泥の貯留に要する容積】汚泥が蓄積する早さと汚泥を除く頻度で決まります。汚泥の蓄積は、汚水の質によって違います。米国では、汚泥の蓄積を少なくするために、固液分離してから嫌気性ラグーンの投入することが多く行われています。ノースカロライナ州の養豚の例を表に示します。

表1 米国ノースカロライナ州の養豚における嫌気性ラグーンの設計基準(1992年)
経営形態 単位 浄化に要する容積 汚泥の貯留に要する容積
育成 m3/頭 0.8 0.4
肥育 m3/頭 3.8 2.0
繁殖 m3/種雌豚頭 8.2 4.1
一貫 m3/種雌豚頭 40.1 20.1

【汚水量に対する容積】農地に散布するまでの期間、処理水を貯留するための容積です。通常は3ヵ月〜1年分の汚水量に設定します。

【正味の降雨量】農地に散布するまでの期間の通常の降水量から、水面から蒸散する水量を差し引いた水量です。

【風水害による一時的な流入水量】台風などで一時的に大量の雨水が入ることを想定した水量です。米国EPAでは、25年に1度の確率で起こる24時間継続する風水害としています。

【表流水流入量】基本的には、流入しないように設計しますから、周囲の盛り土から流入する雨水量です。

【余裕容積】安全措置として30cm深さを多くします。

 嫌気性ラグーンの深さは、少なくとも2〜3mの深さが必要で、米国では一般に2.5〜6mが多いです。深いほど面積が少なくてすみ、発酵ガスによる撹拌効果によって臭気の発生が少なくなります。

 嫌気性ラグーンを2つに分けて、つなげた構造の2段式ラグーンは、2槽目が貯留槽をかねるので、1槽目の処理が安定します。全体の容積は、1槽だけの場合と同じです。もし、より大きな容積にして2槽にするのならば、より良い処理水質を得ることができます。槽を3つ以上に分けても、全体の容積が変わらなければ大きな効果は得られません。逆に水生生物の繁茂による処理水質の低下が起こる可能性があります。

 新しくラグーンを立ち上げるときは、始めに半分程度まで水を入れてから、汚水の投入を始めてください。他のラグーンの底から汚泥を取って入れると早く安定な状態にすることができます。

 汚水の投入はこまめな程良く、少なくとも1日に1回は投入するようにしてください。一気に大量の汚水が入ると、悪臭発止の原因となります。処理水の排出は、満杯になる前にやる必要がありますが、浄化に必要な容積以下になるほど汲み出してはいけません。

 適正に処理できている嫌気性ラグーンの処理水は、pH7〜8になります。新しいラグーンで稀釈水なしに稼働を始めたり、汚水の投入量が過剰だったりした処理水は、pH6.5以下の酸性になり、悪臭が発生します。このときは、石灰を水面全体に散布すると、一時的ではあるが、pHが上昇させて悪臭を抑えることができます。

 微生物による分解が良好に行われていても、かなりの量の汚泥が残ります。嫌気性ラグーンにあまりの多くの汚泥が蓄積すると、浄化に必要な容量が不足するようになります。汚泥を除く頻度は汚水の質によって違うので、最初は汚泥の蓄積具合を注意深く観察する必要があります。嫌気性ラグーンの汚泥は6〜13%の固形物を含んでおり、ラグーンの深さの分だけ揚水しなくてはならず、植物由来の長い繊維が含まれている可能性もあるので、汲み出しする装置は、そのようなものに対応できるものが必要です。汚泥は水分が高いので堆肥化には向きませんが、リンやカリなどの肥料成分を多く含むので、そのまま農地にすき込むか、ばっ気処理で液肥化して農地に還元するのがいいです。


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