メタン発酵法(嫌気性発酵法)

 ふん尿の有機物を嫌気的に微生物に分解させて、メタンガスを発生させる方法です。回収したメタンガスをボイラーや発電に利用できます。ふん尿は、有機物が分解されて、消化液と呼ばれる液体になります。メタン発酵には、この消化液の処理が必要で、建設費が高いなどの欠点があります。

 メタン発酵で得られるガスは、メタンガスが65%程度で、他に二酸化炭素や硫化水素を含んでいる、バイオガスと呼ばれるものです。このため、メタンガス濃度が100%近い天然ガスと同じように利用できるわけではありません。まず、金属などを腐食してしまう硫化水素を除去する必要があります。これには機能が安定しているけれどもコストがかかる化学的方法と、コストが安いけれども管理が不十分だと機能を発揮しなくなる生物学的方法があります。バイオガスを利用するボイラーや発電機は、緊急時のために軽油や天然ガスでも稼働できるものを導入した方が無難です。

 消化液は、ふん尿に含まれている窒素やリンが、ほぼそのままの量で残っています。有機物が分解されることで、スラリーよりも流動性あり、即効性の高い良質の液肥なので、農地還元に適しています。悪臭は、スラリーよりは少ないものの、注意が必要です。近隣に民家がない農地に散布するか、土中に注入するインジェクターを使って散布するなどの対処をしてください。湛水した水田の施肥に利用できるのならば、水口から流し込むだけで手間がかからず、臭気もほとんど問題になりません。消化液は、堆肥と違って窒素の即効性が高く、ほとんど後効きしないので、化学肥料と同様に元肥だけでなく追肥にも使えます。液肥として利用するときは、農地還元の項目をご覧ください。

 消化液を浄化して河川などへ放流するには、かなりの費用がかかります。基本は農地還元で、どうしても処理しきれない分を浄化するようにします。浄化は、活性汚泥法のみでは窒素が除去しきれないので、生物学的脱窒などによる処理が必要です。

 メタン発酵は、汚水の量や質の安定供給、発酵施設の維持管理、消化液の処理、バイオガスの有効利用といった管理も必要です。通常の汚水処理よりも複雑になるので、高度な管理技術が要求されます。管理が適切であれば、低コストで汚水処理でき、エネルギー源を得られる優れた技術です。しかし、管理しきれなくなると、処理が滞って畜産経営自体に支障をきたすので、導入の際には、十分な検討が必要です。

 メタン発酵法には、発酵温度が37℃付近の中温発酵法と、55℃付近の高温発酵法があります。高温発酵法は、加温するためのエネルギー損失が大きいですが、有機物の分解効率が高い、発酵タンクを小さくできる、高温殺菌処理がなされるなどの特徴があります。また、メタン発酵法は、水分90%程度の液体で発酵させる湿式法と、水分80%程度の半固形状態で発酵させる乾式法があります。畜舎汚水の場合は、ほとんどが湿式法です。乾式法では、樹木の剪定枝や古紙を汚水に混合してメタン発酵する方法が行われています。また、畜舎汚水に食品残渣を混合するとガスの発生量が高まり、エネルギー活用型メタン発酵法としてのメリットが高まります。畜産排水と地域有機質資源を合わせた資源循環型システムの組み立てが期待できる処理方法ですが、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づく廃棄物処理業の許可が必要となる場合があるので、注意が必要です。


メタン発酵槽の一例


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